ベトナムは「世界のバイク工場」になったのか――770万台の生産能力とEV革命が変える東南アジアの産業地図

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▪️ベトナムは「世界のバイク工場」になったのか――770万台の生産能力とEV革命が変える東南アジアの産業地図

朝7時、ホーチミン市の交差点に立つと、バイクの川が流れている。

信号が青に変わると、数百台のバイクが一斉に動き出し、交差点を埋め尽くす。初めてこの街を訪れた人は、その光景に圧倒されるだろう。

ベトナムは人口約1億人の国だが、国内にはおよそ7700万台のバイクがあると言われている。つまり国民の多くがバイクを持つ、世界でも有数の「バイク大国」だ。

だが、この国のバイクの物語は単なる交通事情だけでは終わらない。

いまベトナムは、世界の二輪車生産拠点の一つへと変わりつつある。

▪️北部に広がる巨大な二輪工業地帯

現在ベトナムには、10ブランド・16のバイク工場が稼働している。

その総生産能力は年間約770万台に達する。

主なメーカーは

• ホンダ

• ヤマハ

• スズキ

• Piaggio

• VinFast

などである。

特に興味深いのは、これらの工場の多くがベトナム北部に集中していることだ。

ハノイ周辺のバクニン、フート、ハイフォン、フンイエンには巨大な工業団地が広がり、電子産業の工場と並んで二輪車工場が立地している。

この地域には

• 部品メーカー

• 金型企業

• 物流企業

などが集まり、二輪車産業のサプライチェーンが形成されている。

中国南部から部品が入り、ハイフォン港から完成車が輸出される。

この地域は今や、東南アジアの二輪車工業ベルトと呼べる存在になっている。

▪️日本企業が作った産業

この産業の基礎を築いたのは、日本企業だ。

ホンダは1990年代にベトナムへ進出し、現在では3つの工場を持ち、年間250万台規模の生産能力を持つ。

ヤマハやスズキも続き、日本企業が持ち込んだ品質管理や生産技術が、ベトナムの二輪産業の基盤を作った。

つまりベトナムのバイク産業は、単なる組み立て工場ではない。

日本式の製造システムをベースに発展した産業なのである。

この点は、東南アジアの他の製造拠点と似ている。

▪️世界のバイク工場ランキング

では、ベトナムは本当に「世界のバイク工場」なのだろうか。

現在、世界の二輪車生産はおおよそ次の国々が中心になっている。

1位 インド

2位 中国

3位 インドネシア

4位 ベトナム

インドや中国は年間数千万台規模の生産を持つため、ベトナムはまだその規模には及ばない。

しかし東南アジアでは、ベトナムはすでにインドネシアに次ぐ重要な二輪生産拠点として存在感を強めている。

さらに近年、この産業を大きく変える動きが始まっている。

▪️EV革命が始まった

それが電動バイクの急成長だ。

ベトナム企業VinFastは

• Klara

• Feliz

• Evo

などの電動バイクを展開し、販売を急速に拡大している。

さらに電動バイクを使った配車サービスなど、新しい都市交通のモデルも登場している。

ベトナム政府も都市の排ガス問題対策としてEVを推進しており、電動バイク市場は今後さらに拡大する可能性が高い。

つまりベトナムは今、ガソリンバイクから電動バイクへの転換の最前線にある。

▪️中国企業も参入

この市場の成長を見て、中国企業も動いている。

中国最大級の電動バイクメーカーYadeaはすでにベトナムに大型工場を建設し、生産を開始している。

さらにTAILGなど中国企業も参入し、競争は一気に激しくなった。

ガソリンバイクで強い日本メーカー。

EVで急成長するベトナム企業と中国企業。

この三者が競争する市場は、世界でも珍しい構図だ。

ベトナムは今、世界の二輪EV産業の実験場になりつつある。

▪️「バイクに乗る国」から「製造する国」へ

ホーチミンの街では、今日も何百万台ものバイクが走っている。

しかしその背後では、北部の工業団地で巨大な生産ネットワークが動き続けている。

そこで作られたバイクは、ベトナム国内だけでなく、世界市場へと輸出されていく。

かつてベトナムは、「バイクに乗る国」だった。

しかしこれからは、もう一つの顔を持つだろう。

「世界へバイクを送り出す国」。

東南アジアの産業地図は、静かに変わり始めている。

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