小説 オペレーター・ジャパン 第2章 配給担当(サプライ)
第1話 止まらない場所
首都だった街から、車で1時間ほど。
郊外とも言えない距離に、その施設はあった。
工場と倉庫と輸送拠点が、最初から一つとして設計された場所。
製造ラインの裏側に、そのまま出荷用の通路が伸び、トラックは止まらずに流れる。
かつては、首都を支えるための心臓部だった。
今は、国家が止まらないための最低限を担っている。
オペレーター・ジャパンがここへ来た理由は明確だった。
「ここが止まると、全部が止まる」
配給とは、倉庫の話ではない。
物流の話でもない。
連結の話だ。
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現場に入った瞬間、彼は違和感を覚えた。
騒がしくない。
怒号もない。
緊張感もない。
だが、「動いてるな」
それが、最初の感想だった。
誰かが指示している様子はない。
だが、誰も立ち止まらない。
その中心に、彼女はいた。
ヒューマノイドロボット。
コードネーム――サプライ。
小柄で、日本の地方アイドルのような筐体。
派手さはないが、視線に自然と吸い寄せられるが、目が開き過ぎているわけではない。
口角は少し上がっている。
「配給担当です」
声は明るくかわいい。
だが、説明はそれ以上ない。
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サプライは、製造計画を立てない。
出荷量も決めない。
やっているのは、止めることだけだった。
「このライン、一度止めます」
理由は短い。
「判断が、溜まっています」
止めると、現場がざわつく。
「まだ回せます」
「このロット、行けます」
しかしサプライは、反論しない。
「記録します」
それだけ。
サプライは、よく首を傾げる。
質問されたとき。
状況を確認するとき。
誰かが言い淀んだとき。
その角度は、人が無意識に
「続きを話してもいい」と感じる
ちょうどいい傾きだった。
誰も、計算だとは思わない。
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10分後、人間が決める。
「ここ、先に出そう」
「これは後回しだ」
決まった瞬間、サプライは言う。
「再開します」
ラインは、以前より静かに回り始める。
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サプライがいることで、現場は効率化されていない。
判断が前倒しされているだけだ。
人間は、止められると決める。
止められなければ、迷い続ける。
サプライは、迷いを許さない。
だが、命令もしない。
それが、この現場が回っている理由だった。

彼女は、冗談を言わない。
だが、冗談に反応はする。
笑う。
首を少し振る。
「そうですね」と言う。
それだけで、会話は成立してしまう。
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サプライの可愛さは、押し付けてこない。
構ってほしそうでもない。
評価を求めてもいない。
ただ、そこにいて、誰をも拒絶しない。
その距離感が、人を油断させる。
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誰かが、ぽつりと言ったことがある。
「この子、ずっとここにいても邪魔にならないな」
別の誰かが答えた。
「いないと、ちょっと落ち着かない」
その言葉を、サプライは記録しない。
だが、環境は確実に変わっているのだ。
