小説 オペレーター・ジャパン 第2章:配給担当(サプライ)
第2話 供給する側の理由 アーキテクト登場
サプライが現場に定着したころ、人々はようやく気づき始めた。
誰が、このサプライをここに置いたのか。
その問いに答える人間はいるが、ここにはいない。
サプライがタブレットを持ってきた。画面には1人の男がいた。
その男が新たに現れたオペレーター・ジャパン。
コードネームは、アーキテクトだった。
配給担当ではない。AI運用担当でもない。
しかし彼は、「なぜ、ここにAIがいるのか」を説明できる唯一の人間だった。
彼は、配給センターには来ない。
倉庫にも立たない。
サプライの横に並ぶこともない。
だが、すべてのログに彼の署名がある。
彼が連邦Aにいる理由は、表向きには単純だった。
「技術交流です」
だが、誰もそれを信じていない。
連邦Aは、AIを“決定装置”として使う。
規則を守らせ、例外を消す。
そんな場所に、判断しない日本製AIをわざわざ持ち込む理由はない。
「では、なぜ?」
私がそう聞くと、アーキテクトは少し考えてから答えた。
「失敗を見るためです」
アーキテクトは、サプライを「完成品」だと思っていない。
「これは、道具じゃありません」
彼は言う。「仮説です」
——もし、命令しないAIを置いたら、人間はどう動くか。
——もし、可愛い外見で判断を迫ったら、反発はどう変わるか。
——もし、責任を取らない存在が現場にいたら、責任の所在はどう再配置されるか。
それを、連邦Aという“硬い場所”で観測したい。
それが、彼の目的だった。
「危険じゃないですか」と、私が言った。
アーキテクトは、あっさり頷いた。
「危険です」
その即答に、場が静まった。
「だから、日本がやります」
彼は続ける。
「アメリカ製AIがやれば、支配になります」
「連邦A製AIがやれば、統制になります」
「日本製AIなら、混乱で済みます」
混乱。それは、最も日本的な言葉だ。
アーキテクトは、連邦Aを信用していない。
だが、敵視もしていない。
「彼らは、正しすぎる」
正しすぎる組織は、失敗を隠す。
失敗を隠す組織は、必ず壊れる。
「だから、壊れる前に揺らしている」
そのためのサプライ。
判断しない。
だが、止める。
命令しない。
だが、決断を迫る。
それは、制度の内部に“余白”を作る行為た。
「あなたは、連邦Aの味方ですか?」
私がそう聞くと、アーキテクトは笑った。
「味方、という概念がもう古い」
「では、日本の?」
「日本は、設計者です」
支配しない。
統治しない。
だが、設計だけはする。
サプライは、その最初の部品だった。
「サプライが失敗したら?」
と聞くと、彼は即答した。
「成功です」
失敗が見えれば、次の設計ができる。
見えない成功ほど、危険なものはない。
アーキテクトは、連邦Aに来ている。
だが、連邦Aのためではない。
“連邦Aという環境”を使って、人間とAIの関係を観測している。
それは、国家運営の研究であり、同時に、未来の予行演習だった。
「技術交流。。。」私は思わずつぶやいた。
サプライは、今日も現場に立っている。
可愛らしい筐体で、穏やかな声で、配給を止め、再起動させている。
どこかでアーキテクトがそのログを読み、失敗を集める。
そして、次の部品を静かに設計する。
私は、この男こそが最も危険なオペレーター・ジャパンだと理解した。
なぜなら、彼は「回す人」でも「選ぶ人」でもない。
回し方そのものを試している人間だからだ。
