べトナムのポップカルチャーはどこへ向かうのか ― 「反抗」ではなく「編集」の時代 |アジア文化編集論③

アジア文化編集論

ホーチミンで見える新しい若者文化

ベトナムで暮らしていると、若者文化の面白さを日々感じる。

街には韓国アイドルのポスターがあり、中国発のショート動画が流れ、日本のアニメグッズが売られている。

カフェでは欧米風の音楽が流れ、SNSでは世界中の流行が瞬時に共有される。

しかし不思議なことに、ベトナムの若者文化は韓国にも中国にもならない。

私はその理由を考え続けている。

ポップカルチャーは反抗から始まった

ポップカルチャーは本来、主流文化への反抗から生まれる。

パンクは体制への反抗だった。

ヒップホップは人種差別や階級差別へ反抗、

テクノはレイシズムや脱工業化社会への反抗だ。

そして日本のオタク文化もまた、「普通の人生」に対する静かな抵抗だった。

ベトナムの若者たちは何を拒否しているのか

ところが現在のベトナムの若者文化には、そうした強烈な反抗の色があまり見えない。

もちろん親世代との価値観の違いはある。

しかし彼らは何かを破壊しようとしているようには見えない。

彼らが行っているのは「編集」である

むしろ彼らが行っているのは「編集」である。

韓国からは洗練を借りる。

中国からはスピードを借りる。

日本からは物語やキャラクター文化を借りる。

欧米からはデザインやライフスタイルを借りる。

しかし、それらをそのまま受け入れることはしないのが特徴だ。

ベトナム語に翻訳し、ベトナムの感覚に合わせ、ベトナムの文化の中へ自然に溶け込ませる。

「ベトナム化」。

私はここに、ベトナムのポップカルチャーの本質を見ている。

編集は何に対抗しているのか

では、その編集は何に対抗しているのだろうか。

私は、それは特定の「何か」への対抗ではなくヘゲモニー自体への抵抗だと思っている。

韓国、中国、欧米、そして国内社会

韓国は若者に洗練された成功像を提示する。

中国は圧倒的なスピードと巨大市場を見せる。

欧米は近代性やグローバルスタンダードを語る。

国内では学校、企業、親世代が「正しい生き方」を示そうとする。

現代のベトナムの若者は、それらすべてに囲まれているのだ。

どのモデルにも従属しない世代

しかし彼らは、そのどれか一つに従おうとはしていない。

韓国のようになりたいわけでもない。

中国のようになりたいわけでもない。

欧米になりたいわけでもない。

親世代と同じ生活スタイルや価値観で生きたいわけでもない。

それらの良さは分かる。

でも、自分には自分の価値観をベースとした「居心地のよさ」があるのだ。

だから彼らはそのどれかに「成る」わけではなく、結果的に編集をする。

借りるが従属しない。

学ぶが模倣しない。

取り入れるが吸収されない。

これは文化的な反抗の新しい形なのかもしれない。

「No」ではなく「Yes, but…」

かつてのポップカルチャーが「No」と叫ぶことで生まれたのだとすれば、ベトナムのポップカルチャーは「Yes, but…(そうだね、でも少し違う)」と言うことで生まれている。

この柔軟さに、私はベトナムらしさをとても感じる。

V-POPに残るベトナムらしさ

近年のV-POPには、伝統音楽や民族衣装が自然に組み込まれている曲がヒットすることがある。

韓国や中国の影響を受けながらも、そこにはベトナムの風景や言葉が残っている。

外来文化を拒絶はしない。

むしろ積極的に取り込む。

しかし最後はベトナムのものにしてベトナム文化の更新を図る。

それがこの国の文化的な強さである。

文化編集国家としてのベトナム ポップカルチャー

これからの10年、ベトナムのポップカルチャーはさらに発展するだろう。

その時に注目すべきなのは、何を輸入したかではない。

何を編集したか、何を選び、何を選ばなかったか?である。

そしてベトナム文化に「前より居心地がいい」スタイルを作り上げるのだ。

韓国、中国、日本、欧米、そしてベトナムの親世代の価値観。

さまざまな文化的ヘゲモニーが交差する場所で、ベトナムの若者たちは独自のポップカルチャーを作ろうとしている。

アジアで最も興味深い実験場

私はホーチミンでその変化を眺めながら、ベトナムはアジアで最も興味深い「文化編集国家」になるのではないかと考えている。

それは韓国のコピーでも、中国のコピーでもない。

外来文化を拒絶せず、それでいて飲み込まれもしない。

ベトナムは今、21世紀の新しいポップカルチャーの実験場になろうとしているのである。

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